研究題目  音楽を通してコミュニケーション能力を育てよう

音楽の情報教育化をめざして

長 須 賀 小 学 校   廣田  元子

T 研究のねらい

本校は平成10年度「新世紀学校づくり推進事業」に「音楽を通して世界の子どもたちと手をつなごう」「音楽室から発信!」で応募し500万円の事業費で音楽室からフェニックス(NTTのテレビ会議システム)やインターネットで交流できるように施設を整えた。ところがいざ交流をやってみると,教師の支援がないと,子どもたちは相手校の児童とスムーズに対応することができないということがわかった。そこで11年度は交流を目的とした「音楽を通してコミュニケーション能力を育てよう」をサブテーマに実践を試みた。この実践を通して次のようなことを考えさせられた。

1.  技能を持っていても,その使い方を知らなければただの人となってしまう。

2.        普段の会話では初めのあいさつができても,一人マイクの前に立つとあいさつがきちんとできない。

3.  発信はできても受信できるような発信方法がとれない。

4.  自分に「これならまかせて」というものがないため,マイクの前で自信のない態度になってしまう。

5.  どんな言葉が人を傷つけるかを体験的に肌で感じていないため,平気で人の嫌がる言葉を発信してしまう。

これは,親や兄弟・友達等と普段からコミュニケーションを取る機会が昔の子ども(テレビや塾通いのない時代)に比べて少なくなったことに原因があるのではないかと感じた。もし,もっとコミュニケーション能力を育てる授業の開発をしていたならば子どもたち同士の交流の形は違ってきたのではないか…いじめももっとなくなっていたのではないか。私はコミュニケーションとは,障害だと考えている。人と人とのつながりの前にはかならずいくつかの障害がある。大きければ大きいほどそれを越える努力は大きいが,乗り越えれば必ず融合して新しいものを生み出す。障害が音楽だとすると人の心に響く音楽を作る努力をすればするほど人と人とのつながりの輪が広くなる。音楽や生きるための生活に密着したものすべてが世界共通語である。どの教科でも子どもたちの得意分野を見つけ出し,それでコミュニケーションできる能力がついたら,「生きる力」にもつながるのではないだろうか。人と人との輪をより広く保つためにインターネット等の情報教育も並行してやっていかなければ「井の中の蛙」となってしまい日本のリーダーは育たない。音楽を通してコミュニケーション能力を育てる実践を試みると同時に,音楽の情報教育化もめざしていきたい。

 

U 11年度の反省と12年度指導計画の内容

11年度の反省1

教師が感性豊かな演奏表現能力を持っていると感じた児童でも,一人で演奏することに慣れていないと「いざ!本番!」という時に堂々と演奏ができず,自信を失ってしまい,人前で演奏することを嫌うようになることに気付いた。

12年度の指導1 
 学習の中で,児童が自分の優れた能力を発見することができるような授業を設定。 1011年度にも実施した「歌に挑戦」や「リコーダーに挑戦」等は,自分がどの程度の実力なのかを確認ができるよさと,たとえ失敗しても何度も挑戦できること,挑戦しているうちに人前で演奏することに慣れてくるよさがあるため,本年度も授業に取り込む。歌については,病気でない限り,聴いた音をそのままの音程で声に出せるような指導を心がける。

11年度の反省2

授業の始めや終わり等,集団でのあいさつはできても,コミュニケーション学習のように,一人でマイクの前に立つと,はじめのあいさつすらきちんとできない児童が多いことに気付いた。

12年度の指導2
 一人一人が習慣的にきちんとあいさつができるように,コミュニケーション体験学習の流れの中に,あいさつの部分を位置づける。また,姿勢の悪い児童が多いため,人前に立ったら姿勢よく堂々とした態度を心がけるように教師が声かけをする。

11年度の反省3

自分が演奏をするという発信はできても,その演奏をきっかけとして,受信者を巻き込んでのコミュニケーションはなかなかとれない。教師がヒントとして児童にコミュニケーションの方法を教えると,誰もが同じパターンでコミュニケーションをしようとする。このことから児童はコミュニケーションをすることが苦手なのではなく,その方法を身に付けていないということに気付いた。

12年度の指導3

 簡単でのりやすいリズムの曲で,部分ソロと全員合唱のある曲を学習教材に取り入れて掛け合いの楽しさを知らせる。

楽器でセッションをする方法をいくつか取りあげ,誰でも簡単にできるコードとリズムの創作を通して,いつでも,どこででも場を明るくする即興表現を学習に取り入れる。また,遊びながらコミュニケーションが取れる学習教材を取り入れる。

11年度の反省4

一般教養的な学習はよくできても,今までに,自分の考えでこれが「好き」「だから人には負けないぐらい勉強をする。」という強い意思と努力をする機会がないため,マイクの前に一人で立つと自信がなく,リーダーシップを取ることができない児童がほとんであることに気付いた。

12年度の指導4

 コンピュータ室での学習は,自分発見の場として,全体のテーマにそっての自主学習をする時間にあてる。自主学習可能な学習・・・CD鑑賞・ インターネット・ 教師が入力したキューブミュージックの楽譜で,既習曲の歌やリコーダーの練習・自分の考えや思ったことをキューブプロジェクター等を使って「ものがたり」作りや,プレゼンテーション・・・・まだまだアイデアしだいで楽しい自主学習ができる環境をととのえる。学校にあるCDの検索用ソフトの開発。 

11年度の反省5

親や兄弟・友達等と普段からコミュニケーションを取る機会が少ないためなのか,外へ出て協調しながら楽しく遊ぶ機会が少ないためなのか理由はわからないが,交流相手にいやなことを平気で言って得意になっている児童に「あんなことを言うと相手が傷つくよ。」と言うと「なんで?」という答えが返ってきた。どんな言葉が人を喜ばせるのか,どんな言葉や行動が人を傷つけたり,嫌がられたりするのかを知らない児童が多いことに改めて気付いた。

12年度の指導5
 コミュニケーション体験学習後,教師から児童にむけての感想に,よかった点や「こんな風にかえるともっと楽しい交流ができるよ。」等,一般社会人としての考えを伝える。

また,児童の学習状況を細かく把握するための情報処理データベースソフトを開発し,子ども達が納得する評価方法を目指す。

いくつかの点において教師から児童へと伝えられる学習支援があると考え,本年度も「音楽を通して,コミュニケーション能力を育てよう」をテーマに世界中の子ども達と手をつなぐことができるようにまた,音楽の情報教育化をめざして年間授業の計画をたてた。

V 音楽の情報教育化実践のためのサポート用ソフトについて

 本年度名古屋市教育委員会が募集した「平成12年度教育研究推進事業 実地研修」に「子どもが音楽の自主学習をするためのサポート画面作り」で応募し,817日〜30日までの2週間,徳島文理大学,文学部,コミュニケーション学科,情報処理中条義輝研究室において,これまで手作業で進めていた学習検索や学習状況処理,評価処理のデータベースソフト開発・制作を初めて試みた。このソフトの内容は,日常実践している音楽の授業における手書きの部分を,コンピュータで処理するだけの簡単なものであるが,この情報処理作業によって手書き以上に得られることは,複数のコンピュータで学習している児童達の情報をすべてデータとして残せるため,データを手元において個々にあった指導ができる。データを入れる段階で,評価の基準も決めてしまうためどの子にも均等な評価をすることができる。

W 開発ソフトとテーマとの関連

36年生全学級の音楽の授業は平成8年度からコンピュータを使って「物語作り」に音楽を挿入したり,オリジナル曲を作ったりしている。この開発ソフトは,そうした活動をサポートし,コンピュータで情報処理することによって,個々の進度状況を確認することができる。

@このメイン画面は子供たちがコンピュータではじめに見る画面です。
A自主学習をどのようにして進めるかの項目を確認します。

B「聴く・調べる」の学習内容は,動的な活動です。CDで音楽を聴くことが主です。どんな内容のCDを聴きたいか「検索用のデータベース」を使います。(データベースはMicrosoft Accessを使って作ったものです。)検索結果に出たCD番号を確認して,コンピュータ室に置いてあるCDライブラリーケースの中からその番号を選んで自分のコンピュータで聴きます。聴いている間にMicrosoft Encarta 百科事典や百科事典のWeb検索で関連したサイトを学習することもできます。聴いたり,調べたりしたことを個人ファイルにまとめて,音楽室の「コミュニケーション能力をためす」時間に自主学習したことをネタに,自分と他の友達という関係でコミュニケーションをします。

C「作る・交流する」の学習内容は,静的な活動です。「作る・交流する」を選ぶとキューブペイントやキューブミュージックで素材作りをします。出来上がった素材を組み合わせて,キューブプロジェクターで「電子紙芝居」を作ったり,Outlook Express でメールを書いてそのメールにできたものを添付したりしてインターネット上でコミュニケーションをします。

上記のような画面にそって子ども達は自分で学習する方向性を見つけ,それぞれの活動を始める。

D 子ども達は,コミュニケーション能力をつけるための自主学習を「聴く・調べる」か「作る・交流する」のどちらか一つを選択します。どちらも選んだほうの画面に移ります
E 電子紙芝居や,オリジナル曲作りを選択すると終了画面が出てきます。その後は,スタート→ウインバード→キューブペイント 又は キューブミュージック 又は キューブプロジェクターで作業を始めます。メールを書く人はそのままOutlook Express の画面になりますが,「送信」は先生宛になり,迷惑メールになっていないかどうか点検を受けてから添付する素材が仕上がった段階であて先を変更して学校の外のネットワークへ送信されます。
F西洋・日本・民俗のどれか一つを選択します。Accessの検索画面が出てきますので自分にあった学習を進めます。
G終了したら自分のパソコンで「電子紙芝居」や「オリジナル曲」作りを始めます。ファイルは自分のフォルダを作って同じところへ保存していってください。
ここまではPowerPointで画面を作ってある。検索からはAccessで作ったデータベース画面である。つぎにコミュニケーション能力が身についたかどうか判断するデータベースの表を紹介する。これは直接評価にもつながっている。





























X これからの音楽教育についての考察

自分のために身につけたいことは「何である」と答えられる児童が何人いるだろうか。音楽教育の現場でも同じことを感じる。音楽教育の存在そのものがなぜ教育と位置付けられているのかさえわからない児童もいる。それはこの教育を受けて,自分にどんなメリットがあるのかを感じないような授業の方法で教育を受けているからである。メリットがはっきりしている教育に対しては,目標達成後の自分の姿が想像できる。それならば,音楽教育もメリットがはっきりとわかるような教育にすればいい。音楽は昔から友達になるきっかけとして歌われたり,自分の心を癒すために奏でられたりした。今子どもたちがもっとも苦手なことは友達づきあいである。友達づきあいのノウハウを音楽という共通の話題を通して身に付けることができたら,子どもにとって大きなメリットといえるだろう。音楽の共通の話題を持つためにはその情報収集をしなくてはならない。ただ音楽の授業で幅広く自由に学習させようとすると, 45分の授業,40人相手に一人の教師が個々に支援するのは不可能に近い。音楽の情報教育化とはそんな児童への支援として,コンピュータを使って,音楽情報を検索し,インターネットを利用してより広いジャンルの音楽を知ることができるようにすることである。音楽を通して幅広く学習したことを生かして,学級や交流校の児童を相手に交流し,そこで体感したこと,教師や他の児童から評価されたことを総合して「自分が身につけようとしたことは何か。」「自分が身につけたことは何か。」の確認ができる授業が理想である。最後に教師は情報処理の技能を身につけることも必要になってきたことを痛感する。